大澤信亮

批評家・日本映画大学教授

近況

 7月に発表した「上田岳弘論」、「Yahoo! JAPAN」のサイトに掲載されると書きましたが、遅れているようです。進めているという連絡はあるのでいずれ載るはず。

 今月の仕事は、新潮新人賞の選考会(一昨日終了)、「武蔵野樹林」の「古層探偵」第三回(古歌・中篇)、なかなか終わらない「群像」の犯罪論(現時点で400枚近くあり、大幅に削ることになりそう)、「すばるクリティーク賞」の一次選考等々。

 「小林秀雄」の連載再開は新年号の予定。休載中に『モーツァルト全集』、『伝説の録音』、小林が直接言及している音盤(の周辺も)、モーツァルトのいわゆる名盤などを聴きました。合わせて4000曲くらい。予備知識をほぼ入れずに浴びるように聴くという素人的なやり方で、自分の無力さと研究・批評のありがたさを痛感するばかり。

 とはいえ、長年の謎だった、小林が「弦楽五重奏曲第4番ト短調」(K.516)について、「疾走するかなしさ」と書いたときに頭に鳴っていた演奏を発見できた(気がする)し、ヨハン・クリスティアン・バッハに対するモーツァルトの批評的関係にも注目できたし、グレゴリオ聖歌「平和の讃歌第9番」からモーツァルトの「主の御憐みを」(K.222)へ、それがベートーヴェン「第九」に至る流れなども考えるきっかけになりました。原稿に生かせるかわかりませんが。ナタリー・デセイの歌うアリア「いいえ、あなたにはできません」 (K.419)は、歌曲のなかで一番好きになりました。歌詞もいい。

 30代の後半から予兆はありましたが、40歳を超えたあたりから時間の感覚が完全におかしくなってきて、文字通り十年一日みたいな感じです。「重てえな 俺の体の…何もかも」(『バガボンド』)。それでも今日は「かみくら」で、今年最初の大間と秋刀魚、今年最後の新子と新烏賊を食べました。そんな日があってもいいだろう?